「短刀と弓」(日韓関係論)翻訳55 9章―⑦島根県議員たちの出身階層

 この前の反韓派、嫌韓派勢力の共通分母が「戦前世代」だったなら、最近の反韓派、嫌韓派の最大公約数は「日本人拉致問題」だ。
これらは本来天皇の過去史謝罪、従軍慰安婦補償問題、独島領有権問題、教科書歪曲問題が表面化するたびにハチの群れのように反対する運動を広げてきたグループだ。
最近そんな懸案が少し静かになってくると今は日本人拉致問題に全エネルギーを集中しているだけだ。
しかし、再び歴史教科書問題や独島領有権問題が出てくれば、彼らの矢が南の方から帰ってくることは分かりきった道理だ。

 そのため、北韓に対する非難を執拗に並べる日本人はまず警戒しなければならない。
自分に味方してする話では決してない。
彼らの矢が南と北どちらか一方ではなく、いつも韓半島全体をねらっているためだ。

 普通の日本人に接して彼が右翼勢力なのか、健全な保守勢力なのか、でなければ良心勢力なのか判断できる近道はない。
国防色の服を纏って街頭宣伝車で声高に騒ぎ立てる「行動右翼」であれば、身なりだけ見てもすぐに右翼ということを推測できるだろう。
普通の日本人は服装も地味で、なかなか本音、即ち本性をあらわにしない。
そのため、筆者も多くの失敗を経験し、たびたび言い争いもした。

 筆者のような失敗を経験しないで、ただちに「嫌韓派日本人」を識別できる方法はないのだろうか?
これに対する答えの糸口を投げかけてくれるのは前東京大学教授丸山真男(1914~1996、政治思想家)の日本ファシズムの階層分類だ。

 丸山によれば日本のファシズムと侵略戦争を積極的に支持した社会階層は「小工場主、零細工場の長、土建請負業者、小商店主、大工の頭、小地主、上層自作農、小中高の教員、地方官庁の官吏、その他一般下級官吏、僧侶」等であった。

 ファシズムと侵略戦争を支持したもう一つの階層は都市型中間階級階層だ。
例えば「都市会社人、文化人、ジャーナリストグループ、自由知識職業(教授、弁護士)、学生の一部」のようなグループだ。知識人階層で特に侵略戦争を熱心に指示しのは京都学派(京都大学の哲学者グループ)と日本ロマン派に属する文化人たちだった。

 ちなみに医者階層はどんなグループだろうか?
よく知られているように生きている中国人捕虜に「まるた(丸太)」という暗号をつけて生体実験を行った関東軍731部隊の指揮官は医師出身である石井四郎中将だった。
彼は敗戦後生体実験データをアメリカ軍に提供した代価として無罪放免され日本政府がくれた軍人年金までもらって悠々自適に」余生を楽しみ死んだ。

 10年余り前、文芸春秋社が創刊した月刊誌《マルコポーロ》がホロコースト(ナチのユダヤ人虐殺)は捏造という記事を掲載したが、ユダヤ人企業が広告掲載を拒否すると脅されて、2か月後に自主廃刊した。
その文を寄稿した筆者は地方の一歯科医師だった。
また拉致問題を巡る対北韓交渉で北韓をあまりにもかばったと集中砲火を浴びた外務省の田中均審議官の家の郵便箱に時限装置が付いた発火装置を仕掛けた犯人も東京の歯科医師だった。

 敗戦後にも日本ファシズムの社会的基盤であった階層は健在である。
例えば、敗戦後自民党が長期執権を続けているのは正にこれらの階層が自民党の保守化路線を支持しているからだ。
特に日本医師会や歯科医師会は自民党の強力な資金源であり、票田だ。
例えば、歯科医師会幹部は自民党橋本派閥に1億円を不法献金した事実が見つかり、これを記載していない橋本派派閥関係者と共に逮捕されて現在裁判中である。

 「竹島の日」(2月22日)を制定し玄界灘に激震を走らせた島根県議会議員たちの出身階層を分析してみても
ファシズムの社会的基盤は健在していることがわかる。
島根県議会は2005年3月17日在籍議員38名中議長を除外した37名が投票に参加し竹島の日条例制定案に賛成33票(反対2、棄権1、欠席1)という多数決で可決された。
賛成票を投じた議員達は自民党所属29名、公明党1名、無所属3名だった。

 筆者が島根県議員38名の経歴を入手し分析してみると、学歴は中卒が1名、高卒が10名、大学中退が2名、大卒が23名、大学院修了が2名で大卒以上が半部以上を占めていた。
高卒以下は11名だった。また、職業別では地方公務員出身(9名)と国会議員秘書出身(8名)が際立っていて、事業家出身7名、地方自治体議員出身5名、会社員出身3名、その他6名と多彩な階層が網羅されていた。
また、大卒出身23名を出身大学別に分析してみると、東京大学1名、早稲田大学4名、慶応大学3名等東京にある広く知られた大学を出た人たちが大部分だ。

 丸山が列挙した日本ファシズムの社会基盤に全社会階層が網羅されているように島根県議会にも全社会階層が網羅されている。
言葉を変えれば体質的な嫌韓派とか潜在的な嫌韓派が今も日本の全社会階層に等しく広がっているという話だ。
随って、韓国政府が「対日新ドクトリン」で話した日本の良識ある知性と市民階級を探すことは天の星をつかむようなものかもしれない。

 勿論今も右翼勢力の執拗な攻撃を受けているいわゆる「岩波人脈」と称される良心的な知識人グループと「地球市民」を標榜し、扶桑社版歴史教科書不採択運動を繰り広げている市民団体が活動している。
しかし、昔の社会党(現社会民主党)と共産党が群小政党に没落しているように、岩波人脈、地球市民派団体のような良心勢力は少数派に転落した。
代わって「一億総保守化現象」際立っているのが最近の日本だ。

小泉の靖国神社参拝に抗議する市民団体会員たち

 このように見れば良心勢力と連帯し独島問題や教科書歪曲問題を解決していこうという現韓国政府の対日新ドクトリンは日本の現実を全く考慮しないかあまりに知らないでいる机上の空論に過ぎない。
また今、中年女性を中心に韓流ブームが起きていても、日本ファシズムの社会的基盤を作り上げている階層に拡散、浸透している現象ではないということを我々は認識すべきであろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました