「短刀と弓」(日韓関係論)翻訳68 11章―④金日成父子とブッシュ父子

 北韓の金正日国防委員長は小泉総理と2回目の頂上会談をして(2005,5,22)「喉がかれる程(ブッシュと)歌いたい。
皆は音楽を演奏してくれ。」と言ったことが伝えられている。
金正日のこのような表現を借りれば、日本軍国主義の復活のために金日成父子は喉がかれるほど歌を歌い、ブッシュ父子は得意になって音楽を演奏してきたようなものだ。

 金日成が南進を開始した2か月後である1950年8月10日、日本では警察予備隊法が公布され4個師団規模(定員7万5千名)警察予備隊が組織された。
これが日本の再軍備スタートラインだ。警察予備隊が発足して4年後、休戦協定に調印して1年後である1954年7月1日には「陸海空戦力等の不保有」を明記した憲法9条2項の規定にもかかわらず、防衛庁と陸海空自衛隊が正式に発足した。

 息子の金正日は1998年8月31日日本列島に向けてテポドンミサイルを発射した。
この衝撃で日本は慌てて偵察衛星4基の導入を決定した。
偵察衛星導入は専守防衛原則に違反するだけでなく、「宇宙の平和利用」を規定する国会決議にも違反するのだ。
北韓が2006年7月、8年ぶりに再びミサイル発射実験を強行したことで日本は憲法の制約をすべて脱ぎ捨ててミサイル防御網(MD)構築計画を対北繰り上げ態勢にした。

 日本は現在、航空自衛隊6個高射群(高射砲部隊)が地上迎撃用パトリオット1(PAC1)型ミサイルを保有しているがイージス艦で発射する海上迎撃MS3と地上迎撃PAC3を2007年から実戦配置し、2011年までに北韓のミサイルに対する迎撃システムを構築する計画だ。
アメリカとミサイル防御体制を共同開発するために日本から部品をアメリカに輸出できるよう「武器輸出3原則」も一部改訂した。
外国と武器を共同開発することは憲法で禁止している集団的自衛権行使禁止条項に抵触する可能性があるということだ。

 それ自体開発された最新式FPS-XXレーダーも2008年から2011年まで毎年1台ずつ青森、新潟、鹿児島、沖縄に配置する計画だ。
テポドンミサイルだけでなく中国の中距離ミサイル「東風21(約100機)」に対する備えだ。

 北韓の威嚇を脅威として自衛隊の戦力も大きく増強された。
防衛庁はSM3を装着した7700トン級の最新鋭イージス護衛艦(駆逐艦)4隻を追加で導入した。
既存の4隻はミサイル防御態勢導入に対処できるよう装備を大幅に改善する計画だ。
北韓のミサイル基地を先制攻撃できるよう航空自衛隊の戦闘機性能も大幅強化されている。
現在航空自衛隊の主力遊撃戦闘機であるF-15Jイーグル(保有台数役160機)の航続距離は既存のF4EJ遊撃戦闘機の1,5倍である約4600キロメートルだ。
2000年9月から実践配置されたF2支援戦闘機(陸海上自衛隊の作戦を支援するという意味で支援戦闘機と呼んでいるが、実は攻撃用戦闘機だ。)は500ポンド爆弾12発または、クラスター爆弾(破片炸裂爆弾)4発、300ガロンなど補助燃料用タンク1個、自体防御用AAM(空対空ミサイル)2発を装着した状態で約83キロメートルを飛べる。
防衛庁の計画のままに専守防衛原則に違反する空中給油機4台の導入が完了すればこれら戦闘機の行動半径は飛躍的に伸びるだろう。

 北韓に対する先制攻撃は交戦権を認めない憲法9条第1項と自衛隊の専守防衛原則に違反する行為だ。
それにも関わらず鳩山内閣はすでに1956年2月「敵の基地攻撃は自衛権の範囲内」という有権解釈を出し、防衛庁は1993年北韓が1993年5月能登半島沖にノドンミサイルを発射するとその次の年である1994年北韓のミサイル基地に対する先制攻撃方案を検討した。

 即ち防衛庁は北韓のミサイル発射基地があるハムギョン北道ファテ郡ムスタン里から直線距離で一番近い石川県小松基地と鳥取県美保基地から当時の主力機だったF4ファントム戦闘機とF1支援戦闘機を発進させ500ポンド爆弾16発を投下して帰還する作戦を研究した。
シミュレーションを終わった航空自衛隊は「現在保有している戦闘機の航続距離が短く先制攻撃能力は不十分だが、先制攻撃をせよというならできないこともない。」という結論を防衛庁に報告したことがわかっている。野呂田芳成防衛庁長官が「実際被害が発生しない時点でも敵の基地を先制攻撃できる。」と国会で答弁したことが1999年3月であったことを考えれば、防衛庁はすでにその5年前に北韓に対する先制攻撃方案を検討していたということだ。

 「日本が長距離爆撃機、攻撃用航空母艦と大陸間弾道弾(ICBM)のような攻撃武器を保有することは「自衛のための必要最小限の戦力の範囲を超えているのでこれを保有できない。」

 中曽根前総理が防衛庁長官であった時、発刊された第1回防衛白書(1970年)は攻撃武器の保有が憲法違反という点を明らかにしている。これに従って航空自衛隊がF4ファントムを主力戦闘機として採択する時は爆撃装置と空中給油装置をわざわざ取り外させることもした。
また、F-1支援戦闘機を開発する時は他国に侵略的、攻撃的危険を与える可能性があるという理由でピョンヤンまで往復飛行が不可能のように航続距離を短くした。

 しかし、前に行ったように防衛庁が空中給油機導入を完了すれば、F4、F1戦闘機より航続距離が大幅に伸びて、当初から空中給油装置が付けられた現在の主力F15、F2戦闘機が北韓のミサイル基地を先制攻撃して帰還できる。
ちなみに石川県小松基地からファデ郡ムスタン里までの直線距離は約900キロメートルだ。
理論上では補助燃料タンクを付けたまま4600キロメートルを飛べるF15J イーグル戦闘機であれば十分に往復飛行ができる。
しかし、北韓のレーダー網を避けるためにはいわゆる「ロロハイ」技術作戦と北韓戦闘機と費やす時間を勘案すれば、80分即ち千キロメートル飛行が限界であるということが日本の専門家たちの見解だ。

 2006年7月北韓がミサイル発射実験を強行すると、日本ではまた再び「敵基地」即ち北韓のミサイル基地に対して先制攻撃方案を真剣に考えなくてはならないという声が高くなった。
日本の軍備増強論者たちはこのような「北韓危険論」を担って北韓のミサイル基地だけではなく韓国と中国の軍事基地を先制攻撃するので、必要な長距離爆撃機、航空母艦、トマホーク巡航ミサイル、大陸間弾道弾のような攻撃用武器を導入する絶好の機会としてみなすだろう。

 そうでなくても日本はすでに1998年4月「軽航空母艦」に改造できる護衛艦(駆逐艦)大隅(基準排水量8900t)を任務に就かせたことがあった。
現在、3隻を保有中だ。
空母型ヘリコプター護衛艦(16DDH)も2隻(基準排水量13500t)を建造し2008~2009年頃に横須賀と佐世保基地配置する計画だ。
この護衛艦には対潜(水艦)ヘリコプター3機、掃海輸送ヘリコプター1機を搭載する予定だ。
しかし、用途を変更して空母として運用する場合、米英軍が合同して開発中である垂直離着陸攻撃戦闘機JSFを8台から10台、V-22輸送機4台、救助ヘリコプターSH-60を2機搭載できる能力を備えている。

 日本が専守防衛の原則を無視して前陣防御あるいは先制攻撃戦略に転換していることは金日成父子のためだけではない。
父ブッシュは1991年ゴルフ戦争が起こると経済力に相応する負担を負えと日本を急き立てた。
ゴルフ戦争にかかった総費用の五分の一に当たる130億ドルを拠出した。しかし、莫大な戦費を喀出(吐き出す)しても、「現金自動引き出し機」、「一国平和主義」という悪口ばかり言われるようになると日本は憲法の拡大解釈をしてペルシャ湾に掃海部隊を派遣した。
海外出兵という禁忌が壊れた歴史的瞬間だ。

 息子のブッシュはイラク攻撃した後、戦後復旧のために自衛隊をイラクに派遣しろと要求した。
小泉政権は2003年7月イラク復興支援特別措置法を制定した。
自衛隊史上初めて戦闘地域に重武装した陸海空自衛隊兵力を派遣した。
さらに、憲法で集団的自衛権行使禁止を規定していても現在陸上自衛隊はイラクサマワ地域で多国籍軍の指揮と統制を受けて活動中だ(陸上自衛隊は2006年撤収完了)。

 こうしてみると自衛隊に海外進軍ラッパを吹いてくれた人は2回のイラク戦争を起こしたブッシュ父子だ。
その上、息子のブッシュは日本の憲法改定と安保理常任理事国進出にも肯定的だ。

 振り返ってみれば、1960年代だけでも「自衛隊が日本の領域外に出ることは一切許容されてない。」(岸総理、1960年3月衆議院安保特別委員会答弁)ということが日本政府の公式見解だった。
そうだったことが1980年10月には「国連軍の目的、任務が武力行使を伴わなければ、国連軍に自衛隊が参加することは危険とは見られないが、自衛隊法にそのような任務規定がないために不可能だ。」と切り替わった。また1992年には「多国籍軍の任務が武力行使を伴わないなら自衛隊参加は憲法上可能だ。」と解釈を変更した。

 自衛隊に関する憲法解釈も急速に変わっていった。
吉田茂前総理は1950年7月衆議院本会議で「警察予備隊は軍隊ではない。」と答弁した。
また1951年10月の参議院本会議では「憲法9条の戦力とは陸海空軍とそれに匹敵する戦争遂行手段としての力を意味し、自衛のための必要な必要最小の戦力が即ち自衛隊だ。」という解釈を示した。

 しかし、1980年11月衆議院特別委員会で「国際法上自衛隊は軍隊」に変わり、小泉総理は2003年5月参議院特別委員会で「自衛隊は実質的に軍隊」だと釘を刺した。
戦争を放棄したという平和憲法がいつの間にか軍隊を持つ戦争憲法に変わったのだ。

 日本の軍備増強を煽った別の要因は中国の態度と危険だ。
100年余り前に日本は清国の北洋艦隊所属の「定遠」と「鎮遠」に対して恐怖心から1883年海軍力増強8か年計画を立てた。
全公務員の給与十分の一を削減して海軍力を増強した結果、日本は日清戦争で大勝することができた。

 中国は明の時の下海之禁、即ち海へ進出することを禁止した海禁令の影響で日清戦争に敗北した過去の歴史を教訓として最近海軍力増強に腐心している。
中国が最新式航空母艦等を導入し、大洋海洋力を備えるようになった2010年代後半にはクリル列島―日本―台湾―フィリピンを連結する海洋統制権を持つようになるだろうという展望が優勢だ。

 中国の葛藤要因である尖閣諸島の領有権紛争と東中国海ガス田紛争、シーレーン防御問題を知っている日本としては中国の海軍力増強は決して対岸の火事ではない。
防衛庁は日本を攻撃することのできる3つのシナリオを想定してその対策を準備中だ。

 初めのシナリオは中国が台湾と武力衝突を起こして日本国内のアメリカ軍基地を攻撃するということだ。
2番目のシナリオは尖閣諸島を武力で占領する可能性だ。
3番目のシナリオは海洋自然権益のための対立で衝突が起きる可能性だ。

 日本政府は2004年12月閣議を開いて新防衛計画大綱を決定した。
骨子は昔のソ連の侵攻を想定して自衛隊主力を北海道に配置したといういわゆる「北方重視戦略」を中国の島嶼侵攻と衝突に備えて自衛隊主力を南方へ移動させるといういわゆる「南方重視戦略」へ転換するのだ。

 中国が本格的に最新式航空母艦を導入すれば日本も専守防衛原則を投げ出して攻撃型航空母艦や長距離爆撃機を導入することになるだろう。
このような点で中国の軍事力増強、特に海軍力増強が日本の軍備増強に熱を入れる影響が途方もなく大きい。

 日本が金日成父子の脅しとブッシュ父子の圧力、そして中国の危険に対処する道は憲法改正だ。
憲法を拡大解釈すると言ういわゆる「解釈改憲」は現在限界に達した。
もはや憲法を全面的に改める道しかないというのが日本の大勢だ。

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