「短刀と弓」(日韓関係論)翻訳31 6章  キム・ サン(訳者注;1905~1938、本名張志樂)の壁 「朝鮮人は日本人を信じない」 ①サッカ―義和団の乱―前半戦

ハムソッコンをはじめとする朝鮮青年たちは内村鑑三が関東大震災の時とった行動を知って衝撃を受けた。
地震当時内村は朝鮮人が襲撃してきたという流言飛語を信じ息子と一緒に棍棒をもって近所を守っていたというのだ。
ハムソッコンは《新東亜》対談でその時の衝撃と失望をありのまま打ち明けた。

6章ー① サッカー義和団の乱―前半戦

2004年7月中旬から8月初めにかけて中国で開催されたアジアカップサッカー大会で中国の観衆が激しいヤジを浴びせた問題のために中日関係が冷たくなった。

 日本チームは予選リーグ戦3試合をよりによって反日感情の波が高い地方だと世評のある重慶で行うことになった。
予想通り。重慶の観衆は試合開始の笛が鳴る前から「アジア人民に謝罪しチャオウイーダオ[魚釣島、日本名尖閣諸島]を返還しろ」という意味の垂れ幕を掲げて日本チームに激しいヤジを浴びせた。
君が代演奏の時は選手たちが合わせてきちんと歌うことができないほど騒音が鳴り響いた。
「立て、奴隷となることを拒む人達よ」で始まる中国国歌「義勇軍行進曲」の合唱が君が代演奏よりももっと大きく響きわたった。
ブラジル出身のジーコ日本監督は国歌演奏が聞こえないほどの騒音は自分のサッカー人生で初めて経験したと不平を言うほどだった。

 日本のマスコミが中国に反日応援熱気を連日特筆大書するとついに外交問題に飛び火し外務省が駐日中国大使館に「反日感情を扇がないよう特段の措置をとってくれ」という要請を告げた。
日本の閣僚会議では「中国観衆の偏った応援は中国の反日教育にその根がある」とし、中国政府の傍観する態度を集中非難した。
ある閣僚は「北京オリンピックがきちんと行われるか、さあ見てみよう。」というような放言もためらわなかった。

南京大虐殺を否定し、今も中国と呼ばずにシナ(支那、日本が江戸中期以後から敗戦前まで使用した中国の呼称)という呼び名に固執している東京都の石原慎太郎知事は中国観衆の反日応援を「中国の民度が低い」せいだと話題をそらせた。

 日本が予選リーグを行った重慶は中日戦争当時蒋介石政府の臨時首都だった。
日本軍は重慶を攻略するために無差別爆撃を敢行した。
中国側が提示した資料によれば1938年と1943年の間に日本軍用機9500機が出撃し2万個以上の爆弾を落とし、中国人2万6千名が死んだ。

 そのために重慶はもともと反日感情が特に高い都市だった。
例えば何年か前、ある給油所の主人が「日本車は給油を拒否する」という看板を掲げると市民やネット上から熱烈な拍手喝さいがおこった。

 バーレーンとの準決勝が行われた済南でも日本チームは激しいヤジを浴びた。
日本は1919年ドイツが占有していた山東省の権益を譲れと国民党政府に要求すると済南で10万の群衆の大会が開かれた。
これが全国的な反日愛国運動「5.4運動」の母胎となり、済南は中国の反日愛国運動の発生地であると言えるのだ。

 また、1928年5月、蒋介石北伐軍が山東省に入省すると日本軍が自国民を保護するという名目で山東省に進軍し多数の市民を虐殺した「済南事件」が起こった。
この事件以後中国の対日感情が極度に悪化したことは勿論だ。

朝日新聞のコラムニスト船橋洋一の表現を借りれば「サッカー義和団の乱」(義和団の乱は日清戦争後である1899年列強の中国侵略に抗告するため白蓮教の信者たちが山東省で蜂起し北京の外国公館を包囲した事件)は日本チームが決勝戦に進出するのについて北京まで南下した。
8月7日決勝戦が行われる北京の工人体育場には6万名の観衆が集まって、一方的に中国チームを応援したが、結果は3対1で日本が勝利した。

 しかし中国人観衆数千名が競技場の外に出て、「小日本、(日本の蔑称)打倒」を叫びながら日章旗を燃やす騒動を起こした。
日本公使が乗った乗用車を怒った群衆が襲撃し後部座席のガラスが粉々に砕けたこともあった。

 ことがこれほどになれば、朝日新聞の社説(2004,8,5)のように単純なサッカーの試合ではない。
例えば、中南米ではサッカーの試合が戦争を引き起こし、フランスとアルジェリアのサッカーの試合では、アルジェリアの応援団がフランス国家の演奏にヤジを飛ばして競技場へ乱入し試合が中止されたこともあった。

 詳しく見れば、朝日新聞の社説で言っているように中日戦争が終わって60年を超え、中国と日本が国交を正常化して30年が過ぎた。  
両国の相互依存度は日ごとに深まっているが、唯一日本チームだけがひどいヤジを飛ばされる競技場の雰囲気はだれが見ても正常ではない。
スポーツと政治を混同してはいけないという声も当然の話だ。
鳩山(中国の現代京劇「紅とう記」)に登場する日本人悪役)のような日本人とそうでない日本人を区別するすべを知る慎重さも必要だ。

 しかしなぜ日本チームだけが徹底してヤジを浴びたのかは「小日本」の国民もこの際じっくり考えてみなければならない。
中国の反日応援問題を単純に民度と反日愛国教育、貧富の格差などに求めようとすれば問題の本質は見えない。

 また中国外務省の孔報道官も当時記者会見で「日本はなぜ中国人が反日感情を持つようになったかを自ら振り返ってみなければならない。
日本側は中国観衆のブーイング(ヤジ)を大きく問題にしているが、小泉総理の靖国参拝は抗日戦争で犠牲になった数千万の中国人と13億の中国国民に対するブーイングだ。」と反撃した。

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