ノムヒョン大統領が「日本はその間、自衛隊海外派遣の法的根拠を準備しておいて、今や再軍備論議が活発に進行している。」という文を青瓦台ブリーフィングに載せてから5日後、産経新聞のコラム「正論」には、イラク派兵は「自衛隊が世界に誇示する新しい武士道」という主張が載った(2005、3,28)。
自衛隊のイラク派兵を「段階的な再軍備の動き」であると評価する韓国と「新しい武士道精神の発露」という日本の主張が正面に配置されている文章で一部が紹介もされている。
自衛隊幹部出身である筆者、志方俊之帝京大学教授はまず「武士は強いが、弱いものを助ける。
まず剣を抜くのではなく、恩を誇るのでもなく、用件が済めば何も言わずにその場を立ち去る」と武士道精神を定義している。
そうして、「日本は世界の混乱と貧困に対して先進国の責務を遂行する心がけを持つ必要があり、自衛隊の派遣はそんな日本の姿勢を上程(会議に提起?)すること」と主張した。
志方はまた「自分や自国の国益だけ考えるのではない武士道という伝統の精神文化に誇りをもって世界に伝えて行こう。」と訴えた。
自衛隊のイラク派兵は重武装の陸海空自衛隊が、同時に大規模に日の丸を掲揚して戦闘地域に派兵されたという点で国際連合に平和維持活動参加を目的とした以前の海外派兵とは違う。
すでにカルフ;Gulf戦争(湾岸戦争)の時、専守防衛の原則を無視して自衛隊法の機雷除去任務規定を根拠に日本から実に1万3千キロ離れたペルシャ湾に掃海艇4隻、補給艦等6隻を派遣した。
自衛隊が発足して以後初めて海外進軍ラッパを鳴らしたのだ。
日本はその後、国際連合の平和維持活動に参加するという目的でカンボジア(1年1216名)、モザンビーク(1年154名)ゴラン高原国連監視軍(1年661名)、ルワンダ難民救援(138名)、東チモール避難民支援(113名)、アフガニスタン難民支援(138名)国連東チモール支援団(1年1882名)イラク難民支援(56名)等に自衛隊を派兵してきた。2001年12月には自衛隊が国連平和維持軍(PKF)の中心業務にも参加できるよう国連平和協力法が改訂された。
アメリカで起こった同時多発テロを契機に改訂されたテロ対策時別措置法に従って自衛隊が初めて2001年11月戦争危険地域にも派遣された。
海上自衛隊艦艇5隻がアフガニスタンの難民を支援する任務を引き受け、インド洋に派遣されたのだ。
最新のミサイル駆逐艦イージス艦はアメリカ軍の武力行使に巻き込まれる憂慮があって、初めは派遣を躊躇したが、結局2002年12月、「きりしま」、「こんごう」を相次いでインド洋に派遣した。
国際連合の旗の下海外派兵の実績を積んだかどうかを規定事実化するといういわゆる「実績積み重ね作戦」は2003年7月に成立したイラク復興支援特別措置法案に従ってその性格が本質的に変更された。
2004年2月5日、閣議決定された基本計画法により陸上自衛隊員600名が装甲車と装甲車両20台、拳銃、小銃、機関銃で武装し、イラク南部サマワ地方に派遣された。
航空自衛隊も輸送機8機、海上自衛隊は輸送艦、護衛艦等4隻を派遣した。
憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に該当する多国籍軍参加も国会の承認を受けないでさっさと閣議決定(2005、6,18)してしまった。サマワに派遣された自衛隊が米英軍主導の多国籍軍統制下に入っても他国と一緒に武力行使しなければ憲法上問題はないという新しい論理だ。
発足50周年の年に陸、海、空自衛隊が大規模に海外に派兵されたという事実を知れば、地下の岸信介も驚くことだ。
A級戦犯容疑者出身である岸前総理は1960年3月参議院安保特別委員会で「自衛隊が日本の領域外に出動することは一切許されないことだ。」、「海外派兵は絶対にしない。」と約束した。
岸の弟である佐藤栄作総理も「今や、これ以上我が国の憲法では日本が外に出ていくことは絶対にない。」と断言した。
しかし、岸の外孫である安倍晋三議員が当時自民党幹事長を務めていて、イラク派兵を陣頭指揮したという事実を考えると、祖父の言葉と違うと言っても、孫の言葉があまりにも違う。
日本人の建て前と本音、即ち二重性が問い直されることになるといういい見本だ。
「海外派兵の実績を積むことの最終局面」であるイラク派兵は憲法改正の動きにも重大な影響が及んでいる。
現在進行中である憲法改定論議の一番大きい焦点は第9条2項の削除または修正だ。
即ち「戦力不保有」と「交戦権不認定」を規定している9条2項を改訂し自衛隊ではなく、「自衛権」あるいは「国防軍」と呼ぶ正式軍隊を保有し、交戦権を認定し戦争を容認して海外派兵の根拠を正式に準備しようということだ。
日本政府は2006年6月、陸上自衛隊をサマワから完全撤収させることに決定したが、自民党政権の次の目的はサマワ派兵実績を根拠に国内の憲法改定論議を加速化させようということである。
正式軍隊の保有は再軍備の出発点だ。
日本は今「再軍備の企て」を「武士道の発露」と偽装、包蔵(包み隠す;訳者注)しているにすぎない。
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