「短刀と弓」(日韓関係論)翻訳27 5章 世襲政治の壁 政治身分が固定した社会

 世襲議員たちは父母の恩恵を受け無試験で中、高校、大学まで出た人たちだ。
彼らは過去の歴史をきちんと学ぶはずがなく歴史について平衡感覚を備えてもいないのだ。
歴史の暴言を躊躇わず、いわゆる「歴史も羞恥も知らない自民党予備軍だ。」

5章―①世襲政治家たちの壁

日本では職業を代々伝えるのが普遍的な現状だ。
有名なすし屋、うどん屋、うなぎ屋などは大概数百年間、代を継いで商売しているのが普通だ。
華道、茶道、伝統舞踊のような分野では家元制度というのがあって、子々孫々技法を伝承している。
また、歌舞伎(江戸時代に発達した民衆演劇)や能楽(仮面音楽劇)のような伝統芸能分野では華やかな承継式を挙行して子孫たちが先代の名前を引き継いでいく。

 国情の違う政治世界でも世襲現象が目立っている。
2005年9月11日行われた衆議院総選挙で世襲候補132名(自民党112名、民主党20名)が当選した。
当選率は実に82%だ。
これは新人候補の当選率16%に比べれば途方もないプレミアムだ。(世襲候補の次に高い当選率は官僚候補で79%)。
全体の当選者中約3割(27.5%)を占めるほど世襲候補の当選率が高い理由はいわゆる「地盤(後援会)、看板(知名度)、カバン(選挙資金)」と呼ばれる「3点セット」を父親と祖父、曾祖父から受け継いだためだ。そのため総理や閣僚を経験するためには世襲候補でなければ難しいのが日本の政治一番地である永田町の衆論だ。

 2005年10月31日に3次小泉内閣の面々を見れば、その理由は自明の理だ。
まず小泉総理(1942~、12選)が祖父、父を頂く3世政治家だ。
麻生太郎(1940~、9選)総務相は外祖父、吉田茂が総理を父が衆議院議長を経験した。
そこへ義父である鈴木善幸は前総理であり、妹信子は皇族三笠宮寛仁と結婚した間柄だ。
安倍晋三(1954~、5選)官房長官は祖父、父を頂く3世政治家であり、谷垣禎一(1945~9選)財務相は父が文部大臣を経験し、中川昭一(1953~8選)農林水産相は父が中川派閥の長であった。
その他、小坂憲次文部科学相は4代にわたる政治家一門で、川崎二郎厚生労働相、北川一雄国土交通相、中馬(ちゅうま)弘毅行政改革担当相等も2世、3世議員としてちょうど小泉内閣閣僚の半分に該当する9名が世襲政治家だ。

 これらが総理や大臣の席を掌握したことは二言する必要もなく、その年齢には父や祖父などから選挙区を受け継いで当選回数を伸ばしてきたためだ。

次期総理候補と言われている麻生太郎総務相

 事実、敗戦後総理を経験した総理の中で血筋によって国会議員にならなかった人は石橋湛山程度だ。 
一方、吉田、岸、池田、大平、宇野は婿が代を継ぎ、田中総理の婿即ち真紀子前外相の夫は新潟県出身の参議院議員でもある。

衆議院議員当選者職業分布

 政党     自民党  民主党  公明党  共産党  社民党  その他
職業 
 世襲    114     20
 地方政界   89     28                       3          2           1
 新人          83        13           2 
 議員秘書      54        16     
 官僚          51       15        3                         2
会社員        3 0        16      
党職員                              8
法曹界                               6
※女性        26         7          4         2           2
獲得議席      296      113          31          9          7           2

 注;職業別構成が重複しているので各政党の当選者合計と必ずしも一致していない。

佐藤、福田、鈴木、中曽根(長男が参議院議員)、橋本(3男が代を引き継ぎ2005年9月総選挙に立候補したが落選)は息子たちが代を引き継いだ。高下は弟が、宮澤は弟の息子が代を引き継いだ。
海部、羽田、森などは現役議員であるために政界引退後か死後に必ず代が伝わることになる。

 そうなら世襲議員の何が問題か?
政治評論家たちによれば自民党の金権、派閥体質の根源は正に世襲政治にある。
世襲政治家が増加すれば増加するほど支持の質が低下する。
どんな社会経験もない20代30代に代々の選挙区を受け継ぎ、生涯職業が国会議員になった世襲政治家たちは改革意志が不足するだけでなく金権と派閥政治にもすぐに染まりやすい。

 例を挙げれば、田中角栄の娘である田中真紀子議員が小泉政権が発足した時に外相として起用されたが引き下がった事件がいい例だ。
1972年佐藤総理が辞任すると田中角栄と福田赳夫は熾烈な後継者争いを繰り広げた。
この事件を契機に田中と福田は「角福戦争」と呼ばれるすさまじい権力闘争を繰り広げるようになった。

 小泉総理は福田の書生として政治を始めた人だ。
そのため自分が総理になると内閣の第2番目である官房長官に福田の長男である康夫議員を、官房副長官には安倍晋太郎の息子である安倍晋三議員を起用した。
かつての福田派の王子たちを内閣の中枢部に布陣させたのだ。

 田中の娘である真紀子議員は父に背いた経世会、即ち橋本派に復讐する機会を虎視眈々と狙っていた。
そうした際に小泉が経世会打倒を掲げて総裁選挙に立候補した。
大衆に人気が高かった真紀子の援護射撃を受けた小泉は劣勢を覆して勝利した。
真紀子は総裁選挙で活躍した功を認められ外相という重要ポストを握った。

 しかし福田の息子康夫官房長官と田中の娘真紀子外相が小泉内閣で一緒に仕事をすることは父親世代の澱のようなものがあまりに深かった。
外務省人事と改革問題で二人が事ごとに対立すると小泉は外相である真紀子議員よりも福田の息子である康夫官房長官との関係を取り上げた。
結局福田派に追い出された真紀子議員は自民党を去り民主党会派として所属を移動させた。

こんなことが起こるのは世襲議員が増えたので政策対決より父親世代の澱が日本政治を動かしているという重要な変数が登場したためだ。
流行りの言葉で一流の経済に三流の政治だ。
世襲議員が今後引き続き増えていくという点を考えると、日本は身分が固定されている中世の階層社会に後退することになるかもしれない。

世襲議員が増えている現状は韓日関係にも「プラス評価」よりは「マイナス評価」をもたらすだろう。
先ず、彼らが父母の七光りを背負って有名私立幼稚園に入り、エスカレーター式に、即ち無試験で有名中、高校、大学を出た人たちだ。
そんな人たちが過去の歴史を満足に勉強したはずもなく、過去の歴史に平衡感覚を持つこともできないのだ。
歴史暴言をためらわない、いわゆる「歴史も恥も知らない自民党予備軍」達だ。

 彼らの祖父や父はまた直接間接に韓国の植民統治や中国侵略と関連性を持っている。
例えば、満州事変等を勃発させた罪でA級戦犯として逮捕され絞首刑に処された板垣征四郎(1885~1948)前陸相の息子正は日本遺族会幹部、参議院議員を経て靖国公式参拝運動を繰り広げてきた。

       期総理有力候補者たちの身上明細書

名前   安倍晋三          麻生太郎         谷垣禎一
  1954,9,21生       1940、9,20生           1945、3,7生
学力 ‐成蹊大学法学部      ‐学習院大学政経学部卒        ‐東京大学法学部 
  政治学科卒(1977)      (1968)              (1973)
  ‐カリフォルニア大学
   留学(1年)
  ‐南カルフォルニア大学
   留学(1年)

社会 ‐神戸製鋼勤務       ‐麻生セメント社長(1973)      ‐弁護士、税理士
経歴 (1979-1982)      ‐日本青年会議所会長(1978)
  ‐父晋太郎秘書、外務大臣
   秘書官(1982)
政治 ‐山口4区、5選 衆議院議員  ‐福岡8区、9選衆議院議員        ‐京都5区、9選
経歴 ‐第2次森内閣官房副長官  ‐経済企画庁長官(1997,11       衆議院議員
   (2000,7)        ~1998,9)           ‐財務相(2003,9)
  ‐自民党幹事長(2003,9-  ‐経済財政政策担当相
   2004、9         (2001,1~2001,4)
  ‐自民党幹事長代理      – 総務相(2003,9~2005,10)
  (2004,9-2005,10)  ‐外務相(2005,10~)
  ‐第3次小泉内閣官房長官
  (2005,10-)
外交 ‐靖国参拝積極擁護派    ‐靖国参拝派、代替追悼施設       ‐消費税引き上げ等
政策 ‐独島(竹島;訳者注)    建設反対派              経済財政通
  周辺の海洋調査を    ‐総務相の時、独島切手発行   ‐対韓,対中関係
支持する程度に独島     問題で強硬発言         打開を自民党総
問題に強硬な立場      ‐対中強硬派          裁選挙の標語に
  ‐日本人拉致問題を主管   ‐外相在任中ニューヨーク      掲げている。
  する対北朝鮮強硬派     タイムスから「無礼な日本     ‐彼が率いる谷垣
  ‐中国に対しても強硬な  の外相」という批判を受ける       派は保守主流派
   立場        くらい過去の侵略を全面否定     閥宏池会の本家
                        ‐韓中首脳と直接
                         対話できる関係構築、
               靖国神社参拝反対、
A級戦犯 分祀賛成
家族 ‐夫人昭恵は森永製菓    ‐吉田茂総理の長女が母     ‐父は文部大臣を
関係  社長の長女、子供は    ‐父太賀吉も衆議院議員     務める。
いない。       ‐妹信子は皇族と結婚
‐外祖父が岸信介      ‐義父は鈴木善幸前総理
前総理、父晋太郎は
外相を務める
‐弟信夫は生ますぐ外祖父
岸の次男信和(前衆議院議員)
養子として入り、2004年7月
参議院議員当選
その他‐幕末の外情思想家吉田   ‐趣味は射撃で1975年     ‐趣味はサイクリン 
松陰を尊敬          メキシコ国債射撃大会     グで東京大学在学
で優勝、1976年モント     中,学校まで毎日
リオールオリンピックに    自転車通学
日本代表として参加

やはり、自民党の靖国参拝に関連する会を主導してきた平沼赳夫(1939~、岡山3区、9選。
郵政民営化法案に反対して自民党から無所属に変わって出馬)前経済産業相の養父も終身刑の宣告を受けた平沼騏一郎(1867~1952)だ。
騏一郎は右翼団体である国本社を創設し、枢密院議長、総理(1939年1~8月)を務めた人物だ。

 日本の過去の歴史を否定することは自分の家門の歴史を否定し、日本の近代を否定していくようなことになる。
そのために世襲議員が増えていく限り歴史摩擦は減ることができない。
言葉を変えれば、「ネオコン(新保守主義)」が正に日本の「ネオコン(新右翼)」なのだ。
アメリカのネオコンたちが「アメリカによる一極支配」を標榜すれば、日本の世襲系ネオコンたちは「本音の政治」を標榜するのが特徴だ。
前にも言ったように建て前は弱者の論理であり、本音は強者の論理だ。

 日本は敗戦後弱者に転落したために建て前コードを利用して近隣諸国に対して過去史を謝罪するふりをした。
しかし、世襲系ネオコンたちはそんな建て前式外交を否定し、日本の経済力と軍事力に釣り合う「本音の政治」、即ち「強者の政治」を声高に叫んでいる。
典型的な例が正に小泉総理の靖国参拝強行だ。小泉の後を継ぐことになる安倍晋三、麻生太郎、谷垣禎一などもみな世襲政治家達だ。
随って日本がこれ以上韓国と中国の顔色をうかがうことはないのだ。  

 日増しに日本政治の世襲度が高くなるという事実を考えれば、世襲系ネオコンたちの「本音の政治」即ち強者の政治について対処する方法を多角的に研究しておかなければならない。

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